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今も白馬岳の山頂にある、その「風景羅針盤」という石灯籠を見てみたい~というのが、実のところ、今回の白馬岳登山の目的のひとつだった。
映画「剣岳 点の記」の原作者 新田次郎氏のデビュー作「強力伝」は、この風景羅針盤の胴体部分にあたる2つの定石を、麓の二股(ふたまた)から山頂まで一人で担ぎ上げた男の実話をもとにした短編小説だ。
その重さは、1つが50貫というから、現在の目方で約200kg。この石を1つづつ背負子にくくりつけて、あらかじめ登山ルート上に計画した数十箇所の中継地点まで往復しながら、交互に担ぎ上げていったという。
今回われわれが計画していた白馬岳登山では、この強力と同じルートを踏む予定だった。
結局、天候にめぐまれず、強力伝ルートの5分の1も体験することができなかったが、その風景の一端は垣間見ることができた。
昭和初期の登山スタイルというのは、現代のような登山装備と比べれば、剥き身に近い。そんな格好でこの岩場を登ったのか。
その上、登山ルートのスタート地点も、現在のように猿倉(さるくら)ではなく、さらに麓に近い二股だったのだ。今でこそ、舗装道路を走る登山バスなら30分で登るこの二股・猿倉の間を、その男は石を担ぎ上げるために、2日間もかかったのか。
200kgの背中の重さで踏み出す足が大雪渓に沈み、沢の水音に苛立ち、白馬尻小屋で息も絶え絶えになる、といった小説の中の描写が、現実に目の前にあった。
というわけで、撤退を余儀なくされた白馬岳のあと、ぽっかり空いた時間で「強力伝」を読み返して、今回の白馬岳登山のしめくくりとした。